折口信夫の小説「死者の書」を初映像化した人形アニメーション

藤原南家の郎女(中将姫がモデル)と大津皇子の切ない物語

民俗学者、国文学者、歌人としても有名な折口信夫の同名小説を、川本喜八郎が、発案以来30年の構想を経て初映像化を試みた意欲作。ザグレブ国際アニメーション映画祭長編部門審査員特別栄誉賞、文化庁メディア芸術祭アニメーション部門優秀賞作品。

原作は、奈良・當麻寺に伝わる、中将姫の蓮糸曼陀羅の伝説と、天武天皇の第三皇子だる大津皇子の史実をモチーフとしている。川本は万物に霊が宿っているという奈良時代の世界観を背景に、人間の執心と解脱を描く。同時に、折口信夫の説く、古代日本人の魂や自然への畏敬、敵味方の分け隔てなく死者を敬う考え方などを、現代人の心に問いかけたいと願う。人形でなければ表現できない世界が展開される。

物語の舞台は、奈良時代(8世紀半ば)。大和と大陸の双方の文化が融合し、平城の都は爛熟しているように見えたが、政(まつりごと)では、民を蔑ろにした権力争いが繰り返され、飢饉や疫病、干ばつが全国的に発生していた。

平城京では大伴家持(榎木孝明)や恵美押勝(江守徹)らが、やまとごころや漢土の才について論じ合っている。大貴族である藤原南家の郎女(宮沢りえ)は、当時の最も新しい文化――仏教に目覚め、称讃浄土経を一心に写経し、仏の教えに帰依していた。

そんなある日、郎女は荘厳な俤人が二上山の上に浮かび上がるのを見て、千部写経を発願する。一年後の春分の日、千部目の写経を果たすと外は激しい夕立に見舞われた。郎女はものに憑かれたように屋敷を出て、ひとりで西へ西へと歩き、ふと気がつくと二上山のふもとにある女人禁制の當麻寺の境内にまで来てしまっていた。

そこで郎女は、寺の語り部のおうな媼(黒柳徹子)から、50年前に謀反の罪で斬首された大津皇子(観世銕之丞)の話を聞かされる。皇子は死の直前に一目見た女性、耳面刀自への執心から亡霊となってこの世を彷徨っている、と。

郎女は、大津皇子の魂と出逢い、やがて夜更けに現われる皇子の亡霊と俤人を重ねあわせるようになる。郎女は皇子の寒々とした身を被う衣を作ろうと、ひたむきに祈りながら蓮の糸で布を織りはじめる。彼女の一途な心は皇子の彷徨える魂を鎮めていく……。